ドッグランやオフ会で、複数の犬が仲良くおやつを待っていたり、一つのおもちゃで遊んでいる光景。見ていて微笑ましいですが、トレーナーの目線では「ヒヤリ」とする危険な場面でもあります。
実際、「おやつをあげようとしたら隣の犬に噛みついた」「おもちゃを取ろうとしたら唸られた」という経験を持つ飼い主さんは少なくありません。
これはわがままではなく、犬にとって自然な本能的行動。ですが、放置すれば「噛めば自分の主張が通る」と学習してしまう危険性があります。

犬が大切なものを守るのは“わがまま”ではなく“生存本能”
犬は、自分にとって大切なもの(フード、皿、おもちゃ、人、特定の場所など)を守る生き物です。特に「他の犬」に取られることに敏感な犬は多くいます。
これはわがままではなく、生きるための資源を守ろうとする生存本能です。
この行動を、大声や叩くなどの行動で叱って抑え込むのは逆効果。多くの場合、背景には「不安」があります。守る行動を避けるには、「守らざるを得ない状況」を作らないことが重要です。

私たちも、カウンター席のカフェで机の上にスマホや鍵を置いていたとき、隣の人がそれに手を伸ばしたら…あなたも「嫌だ」「怖い」と感じますよね。
それは大事なものを守る、生き物として当然の反応なのです。
「突然噛む犬」はいない!その前に出ているサインとは

「ある日突然、噛みつくようになった」という表現をよく聞きますが、犬は急に噛むことはありません。
噛むまでには必ず「ボディーランゲージ」という小さなサインを出しています。
唸る、視線をそらす、体を固くするなどのサインを無視され続けた結果、最後の手段として噛む行動に至ります。
唸りを「反抗的」と叱ってしまうと、「唸る=ダメ」と学習し、次からは唸らずに噛む犬になることも。唸りを出させないために、日頃からサインを読み取り、早めに対応することが大切です。
噛むことを学習してしまうプロセス

普段優しい犬でも、「守っているものを奪われそう!」と感じたときのの犬の噛みつきは、本気噛みの場合が多く、大抵の飼い主さんは痛みや恐怖から手を引いてしまうでしょう。
この経験を繰り返すと「噛めば解決できる」と犬は学びます。これは一度定着すると修正が難しい強い学習です。
人間でも、怒れば周囲が言うことを聞いてくれる経験を積めば「キレやすい人」になりますよね。犬も同じです。

飼い主が犬のサイン(ボディランゲージ)を無視して犬の大事なものを無理に取ってしまうことで、犬が噛む行動が引き出されてしまこともしばしばあります。
トラブル回避のための環境づくり
トラブルを防ぐには、社会化トレーニングだけでなく、噛み付かざるを得ない状況を作らないことが重要です。
具体的には次のような工夫をおすすめします。
- イベントや外出先では、おやつをあげる前に必ず飼い主の許可を取る
- 犬同士が近距離にいる場面では、おやつやおもちゃを出さない
- 複数の犬で一つのおもちゃを共有させない
相性の良い犬友や家族以外での「おやつ一斉待ち」や「おもちゃ共有」は避けるのが安全です。

犬に「慣れ」や「我慢」を教えるもの大事ですが、飼い主側が犬の「本能」や「気持ち」を理解することも大事なポイントです。
犬の「守りたい気持ち」に寄り添おう
犬が何かを守るのは自然なこと。大事なのは、飼い主が環境を整え、不安を減らすことです。
- 犬の不安サインに気づく
- 社会化を進めて関係性を築く
- 守らなくてもいい環境を用意する
この3つを意識することで、犬との暮らしはもっと安全で楽しいものになります。
INUMADO MEETでは、初めて会う犬同士でも安心して遊べるよう、さまざまなルールを設けています。
そのルールがあるからこそ、人も犬も心地よく過ごせるコミュニティが実現しています。
だからこそ、「うちのコは他の犬とケンカしてしまうから…」という方も、遊びに来てくださいね。

原案・監修:いぬのまどぐち/ドッグトレーナー・片寄智慧
編集・校正:いぬのまどぐち/今村奈緒菜