犬を迎えたら、多くの人がまず取り組むのは「お座り」「待て」などのしつけ。
「お利口な犬にしたい」と思うのは自然な気持ちですが…
本当に大切なのは、“芸ができる犬”よりも“感情が安定した犬”に育てること。
しつけよりも先に、犬が安心して暮らせる土台作りを始めてみませんか?

賢い犬と安定した犬、暮らしやすいのはどっち?

この定義は難しいですが…、あえて言葉にするとしたらこんな感じ!
- 賢い犬:お座り・待て・トリックなどができる
- 安定した犬:吠えない、噛まない、過剰に怖がらない、人や犬と落ち着いて過ごせる
指示を覚えるのに時間がかかる犬と、すぐ興奮したり怯えたりする犬
一緒に暮らすうえで大変なのは、きっと後者ですよね。
つまり、「頭の良さ」よりも心の安定こそが、毎日の暮らしをスムーズにしてくれるのです。
「吠えないでほしい」「落ち着いてほしい」…
ほとんどの飼い主さんが心の中で望んでいるのは、“お利口”よりも“穏やか”な犬。
けれど、実際にやっているのは「お座り」「待て」の練習ばかり。
本当は、まず安心して人と暮らせる犬を目指すことが、しつけのスタートラインです。
感情の安定ができてこそ、しつけも活きる
犬の心の安定には社会化が欠かせません。
子犬期から多くの人・音・環境を経験し、
「怖くない」「落ち着ける」という感覚を育てていくことが大切です。
この“土台”があれば、しつけで教えたこともスムーズに身につきます。
逆に、いくらお座りを覚えても、怖がりやすい犬・噛む犬では暮らしにくさが残ってしまいます。
もちろん、「お座り」「待て」を教えること自体は悪いことではありません。
来客時や病院などで犬を落ち着かせるのに役立つ、大切なスキルです。
ただし、「芸を教える前に安心感を育てる」という順番を意識しましょう。

極論ですが、1歳になるまでは、おすわり・伏せ以外の言葉を教えるのは不要だと思っています。そのくらい「言葉」や「トリック」は何歳になっても覚えられるのです。
「もう成犬だけど遅いですか?」──遅いわけがありません!
「うちの子はもう成犬だから…」と不安になる飼い主さんも多いですが、心配いりません。
犬は“今”を生きる動物。
関わり方や環境を少しずつ変えることで、成犬でも感情の安定はしっかり育ちます。
昨日より今日、今日より明日。
これからの経験が、犬の心を落ち着かせてくれるのです。

安定した犬を育てるための5つのポイント

感情が安定している犬を育てるには「社会化」が大事です。具体的には…
- たっぷり遊び・スキンシップで人への期待感を育む
- いろんな人・犬・環境にポジティブに慣れさせる
- 恐怖心を和らげ、落ち着いた経験を積む
- 噛まなくていい、吠えなくていい環境を作る
- 日々の暮らしの中でストレスをためない工夫をする
“教えること”よりも、“一緒に過ごす時間”や“安心できる経験”が先。
それが結果的にしつけの成功にもつながります。

「賢さ」はあとで伸ばせる。まずは心の安定を
犬と暮らす中で、「お利口にしたい」という思いは自然なこと。
でも一番大切なのは、「この人と一緒にいると安心できる」と犬が感じられることです。
落ち着いた犬、信頼関係のある犬、安心して暮らせる犬。
そんな土台があれば、しつけや芸の習得もぐっと楽になります。
「芸を教える前に、心の安定を育てる」──
そうしてみると、犬との毎日はもっと楽しくなりますよ。

原案・監修:いぬのまどぐち/ドッグトレーナー・片寄智慧
編集・校正:いぬのまどぐち/今村奈緒菜