「子犬のうちにたくさん経験させましょう」
「いろんなものに慣れさせると社会性が育ちます」
犬を迎えたばかりのとき、こんな言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。
確かに、さまざまな刺激に触れることで柔軟さが育まれることはあります。
でも実は、「なんでもかんでも経験させる」ことが逆効果になるケースも少なくありません。
今回は「経験させた方がいいこと」「逆に避けた方がいいこと」について解説します。
子犬の社会化期は“ゴールデンタイム”でもあり“トラウマ期”でもある
子犬の社会化期(およそ生後3週〜12週)は「吸収力が高い時期」と言われ、いろいろな刺激を受け入れやすい時期です。
でもその反面、“不適切な経験”もそのまま心に刻まれやすいというデリケートな一面もあります。

例えば、初めてのドッグラン。
「犬に慣れさせよう」と思って自由に接触させた結果…
- 追いかけられる
- 噛まれる
- 逃げ場がなく固まってしまう
こうした体験をした犬は、「犬=怖い」と学習してしまうことも。
ただ経験させるのではなく、安心を積み重ねることが“本当の社会化”につながります。

犬任せに自由にさせるのではなく、人が仲介しながら少しずつ距離をとり「こういう犬もいるよ」「この子は大丈夫だね」と教えてあげる気持ちが大事!
経験=学習。だからこそ「させない経験」も大事
子犬は世界を知るために、口で噛み、歩き回り、匂いを嗅いで探検します。
このときに“楽しい成功体験”をしてしまうと、それが習慣になることも。
- ゴミ箱をあさったらおいしい匂いがした
- テーブルに登ったらパンがあった
- マットに排泄したら気持ちよかった
これらはすべて「経験」ですが、飼い主にとっては困った行動につながりますよね。
だからこそ、「今はまだ知らなくていい世界」は見せない・触れさせないことが大切です。

人間の子どもだって、ハサミを持たせたら髪を切ってしまったり、ペンで壁を落書きしちゃったりすることがありますよね。
だからこそ、保護者である親が「今はまだ早いから隠しておこう」「これは触れないようにしよう」と配慮する必要があるのと同じです。
「犬に会ったら挨拶させるべき」は誤解かも?
散歩中に他の犬とすれ違うとき、
「挨拶させなきゃ」「慣れさせなきゃ」と思っていませんか?
でもこれが、かえって犬にストレスを与えることもあります。
- 毎回挨拶できると思って興奮して引っ張る
- 相手の犬がNGだと、挨拶できなかったことがストレスになる
私たちも、道ですれ違う人全員と話したり握手したりはしませんよね。
犬も同じで、「挨拶しなくても平気」という経験こそ、暮らしやすさにつながる社会化です。

「犬に会ったら挨拶できるときもあるし、そうじゃないときもある」という柔軟な経験のほうが、暮らしやすくなるのです。
知ってしまうと“期待”が生まれる
犬はとても賢い動物です。
一度「ここにある」「こうすれば出てくる」と学ぶと、次からも狙うようになります。
- バッグにおやつがあると気づけば、ずっと執着
- 冷蔵庫が開くたびに吠える
- クローゼットのおもちゃを出そうと引っ搔く
これは「知ってしまったがゆえの欲求」。
だからこそ、わざわざ見せなくてもいいことは隠しておくのが賢い選択です。

それが将来の“期待”による興奮やトラブルを防ぐことにもつながりますよ!成犬がいるご家庭でも、これを機会に見直してみて。今からでも出来ることがきっと身近にあるはず。
「まだ教えない」は「できない」とは違う
「今できない=ずっとできない」と思いがちですが、そうではありません。
ハサミだって、子どものうちは危ないけれど、大きくなれば正しく使えますよね。
犬も同じで、成長すれば理解できることは必ず増えます。
だから「今はまだ早いから見せない」という判断は、
将来に向けての準備であり、犬を守るための優しい選択です。

早すぎる経験が裏目に出るなら、落ち着いてから段階的に教える方が、犬にとっても飼い主にとってもストレスが少なく、理解も深まります。年齢に応じた学びや遊びを提供してあげましょう。
「何でも経験させる」よりも「どんな経験をさせるか」
たしかに、多くの経験をした犬は社会性が高い傾向にあります。
でもそれは「すべての経験がうまくいった犬」の話。
大切なのは、“その子にとって、その経験はどうだったか?”を考えることです。
経験の質は犬によって違うからこそ、
「させるかどうか」ではなく 「どのタイミングで、どんな形で、どうサポートするか」 がポイント。
「何でも経験させればいい」と思わず、
犬にとって安心できる一歩を積み重ねていきましょう。

原案・監修:いぬのまどぐち/ドッグトレーナー・片寄智慧
編集・校正:いぬのまどぐち/今村奈緒菜