犬との暮らしで「吠える」「飛びつく」「テーブルの上の物を取る」…そんなお困りごと、ありますよね。
つい「やめさせるように教えなきゃ」と考えてしまいがちですが、実は行動をやめさせるトレーニングはとても時間がかかったり、そもそも変えることが難しい場合も。
むしろ、先に「行動が出ない環境をつくる」方が早く、犬にも人にもやさしい方法なんです。

犬を変えるより、環境を変えるほうがラクで確実
最近の犬のトレーニング業界では、「犬をしつけて変える」よりも、「その行動が出ない状況を作る」ことが重要視されています。
なぜなら、行動を根本から変えるには時間も根気も必要で、月齢や学習段階、その犬の性質によっては完全になくすことが難しいからです。
大切なのはこの2つの視点:
- なぜその行動が出ているのか?(=原因の理解)
- どうすれば行動を出させないか?(=環境や対処の工夫)
犬を責める前に、まずは「人が環境を整える」という考え方を持つだけで、グッと暮らしやすくなります。
たとえば、1歳未満の赤ちゃんに髪を引っ張られたとしましょう。
このとき、赤ちゃんに「ダメ」と教えたり叩いたりしませんよね。
代わりに行う事例:
- 髪を結ぶ、短く切る(物理的に触れない工夫)
- 赤ちゃんが触ってもいいおもちゃを与える(代替行動)
- 距離を取る(状況の調整)
これで「髪を引っ張る」という行動は自然となくなります。
この考え方は、犬にもそのまま当てはまるのです。
行動対策の“引き出し”を増やすと悩みが減る
例えば「犬がテーブルの上の食べ物を取ってしまう」という悩み。
先ほどの2つの視点をもとに、一度考えてみると
トレーニングで「取らないように教える」よりも先に、こんな工夫ができます。
代わりに行う事例:
- テーブルに食べ物を置かない
- テーブルを高くして届かないようにする
- 犬が暇つぶしできるおもちゃを与える
- 飼い主が目を離すときは犬をクレートへ
これだけで「盗み食い」という行動がそもそも起きない環境に近づけることができます。
犬のサイズや、家庭環境により、工夫の差は必要ですが
犬を叱らずに悩みを減らせるなら、その方が犬にも人にもストレスが少ないですよね。
ここで、ちょっとした練習問題です。
「ハイハイを始めた赤ちゃんが冷蔵庫を開けてしまう」とき、どう対策しますか?
- 冷蔵庫にチャイルドロックをつける
- キッチンにゲートをつけて入れないようにする
- 冷蔵庫より面白い遊びを用意する
- 目を離すときは、ベビーサークルに入れる
- レイアウトを変えて手が届かないようにする
これらは全部「行動を防ぐための工夫」ですよね。
犬の困った行動に対しても同じで、“環境設定の引き出し”が多いほど悩みが減るのです。

犬友さんとの会話も“引き出し”を増やすうえで参考になりますが、多くの場合「その人の犬のケース」に限られます。自分の犬に合った“引き出し”を増やすには、プロのドッグトレーナーやしつけインストラクターに相談してみましょう。「今、この子に合う環境設定」を一緒に考えてくれる存在は、飼い主さんの大きな味方になります。
教えることも大事。でもまずは「考えること」
犬の行動をただ「教える」よりも先に、
- そもそもなぜこの行動が出ているのか?
- どうすれば特定の行動が出ない環境をつくれるか?
と考えることが大切です。
このワンクッションを置くだけで、犬との暮らしがずっと穏やかになります。
犬はとても賢いですが、人間のような深い理解力はありません。
「やめて!」で変えようとするよりも、「そもそもその行動を起こさせない工夫」をする方が、犬にも人にも優しい解決法です。
困ったときこそ、「何を教えればいいか?」ではなく
「どうすれば行動を起こさない環境を作れるか?」と自分に問いかけてみましょう。
それが、犬との信頼関係を守りながら楽しい毎日を送るコツです。

原案・監修:いぬのまどぐち/ドッグトレーナー・片寄智慧
編集・校正:いぬのまどぐち/今村奈緒菜