「ボールを投げたら、何度でも持ってくる」「おもちゃを咥えて目の前でアピール」——犬と暮らしていると、その遊びへの情熱に驚くことはありませんか?
実は、遊びは犬にとってただの暇つぶしではなく、心と体の健康を保つための重要な行動。本能、進化、そして人との暮らしの中で培われた性質が、犬の「遊び好き」を作り上げています。
犬が永遠の“こども”なのは「ネオテニー」のおかげ
なぜそんなに遊ぶの?犬が「遊び好き」な納得の理由…それは、犬が「ネオテニー(幼形成熟)」という特性を持っていること。この特性があることによって、犬は成犬になっても子犬のような性質を保ち続けます。
これは、祖先とされるオオカミと比べて、短いマズル、垂れ耳、巻き尾といった外見的特徴だけでなく、人懐っこさや遊び好きといった行動面にも表れています。
これらの特性は、犬が人間社会に適応し、深い絆を築く要因となっています。
▼ネオテニーを裏付ける“ロシアのキツネ実験”
1950年代、ロシアで行われた家畜化実験では、人に友好的なキツネを選択交配すると、数世代後には耳が垂れ、尾が巻き、毛色が変化。まさに犬と同じく、外見も性格も「かわいい」方向に変化しました。
つまり犬は、長い歴史の中で人間に好まれる見た目と性格を持ち続けるよう進化してきたのです。

人間に「かわいい!」と思わせる特徴(見た目や気質)を持ち続けるように、長い歴史の中で共に進化、選択育種されてきたんですね!
遊びは“狩りの本能”の延長線上にある

ネオテニーのおかげで、生涯を通して好奇心が旺盛で遊び好きな犬たちですが、その遊びには狩猟本能が色濃く残っています。
追いかける、探す、噛む、振り回す——これらはすべて狩りを模した行動。
犬は遊びを通して本能を満たし、日常の中でストレスを発散している、というわけですね。

「遊び」は犬にとって娯楽ではなく、本能的に求めている行動なんです!
「うちの犬、遊ばない…」その原因は4つ!
遊び好きが多い犬ですが、中には遊ばないコもいますよね。その理由は大きく分けて4つ。
- 体の痛みや肥満 … 関節痛、口腔トラブルなどで体が動かしにくい
- 幼少期の経験不足 … 子犬期に遊びを学ばず、やり方がわからない
- 環境への不安や恐怖 … 安心できない場所では遊びに集中できない
- 遊び方・おもちゃの不一致 … 好みと合わないと興味を示さない
INUMADO MEETのイベントでの様子を見ていても、特に4つ目の「遊び方・おもちゃの不一致」は多くのケースで当てはまっています。おもちゃの種類や動かし方を変えるだけで、驚くほど遊びが盛り上がることもあります。


私のトレーナーとしての経験上でも、4つ目の理由が主な原因となっていました。飼い主さんがその犬に適したおもちゃを使って、犬の興味を引き出してあげることが遊びのコツ。遊び方がわからない場合は、遊び上手なトレーナーに相談しましょう!INUMADO MEETのイベント内でもおもちゃについての講義をする回もあります。
犬同士の遊びと、人との遊びは“別物”だった!研究でわかった犬が人と遊びたがる理由

「犬同士で遊んでくれれば楽」「犬友がいれば、人と遊ばなくても満足かも」と思う飼い主さんは多いでしょう。ですが、実は犬にとって“人との遊び”は犬同士の遊びとはまったく異なる楽しみ方をしていることが研究で明らかになっています。
まず、街中で散歩中の402頭の犬を観察した調査では、単独で散歩する犬と他の犬と一緒に散歩する犬を比較。驚くことに、犬同士で遊べる環境にあっても、飼い主と遊ぶ頻度は変わらなかったのです。これは、犬は犬同士の遊びで満足するわけではなく、人との遊びに別の価値を感じていることを示しています。
さらに、2,585人の飼い主を対象にしたアンケート調査でも、多頭飼育の犬たちの方がむしろ飼い主と遊ぶ頻度がわずかに高い結果に。これも犬の社会性が人との関係に深く根付いていることを裏付けています。
決定的だったのは、犬同士と人との「おもちゃを使った遊び」を比較した実験です。人間と遊ぶ時は犬がおもちゃを見せたり、自ら渡すなど“共有しよう”とする行動が多く見られました。一方、犬同士ではおもちゃの独占時間が長く、競争的な様子が強く見られます。加えて、人との遊びでは相互関与が強く、犬同士の遊びより協力的でした。
これらの結果から、研究者たちは犬同士の遊びと人との遊びは構造も動機も異なる“別物”であり、互いに置き換えはできないと結論づけています。

犬同士の遊びがあったとしても、犬たちは、人との遊びを”特別な時間”として楽しんでいるんですね!
遊びは最高のコミュニケーションツール
犬は遊びを通じて、運動不足を解消し、社会性を育み、ストレスを軽減しています。
もし遊ばない場合は、まず理由を探り、その子に合った遊びを見つけてあげましょう。
そして、ドッグランだけでなく、家や散歩中でも、短時間でいいので飼い主との遊びを取り入れてみてください。
犬との遊びは、単なる娯楽ではなく、飼い主との信頼関係を深める大切なコミュニケーション。
ぜひ、たくさん遊んで、もっと仲良しになってくださいね!

参考資料・文献:
ロシアでのキツネの家畜化実験について
『ナショナルジオグラフィック日本版』
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/080800356/
犬同士の遊び行動と犬と人間の遊び行動の比較
Ghent University Library Repository
https://lib.ugent.be/nl/catalog/rug01:002486781
原案・監修:いぬのまどぐち/ドッグトレーナー・片寄智慧
編集・校正:いぬのまどぐち/今村奈緒菜