犬のしつけや行動の話題で、いまだに「上下関係」という言葉を耳にすることはありませんか?
「犬にナメられたら終わり」「主従関係を築かないといけない」といった考え方が、SNSやネット記事、さらには一部のトレーナーの間でも見られます。
しかし、「犬と人の間に上下関係がある」という考えには、科学的な根拠は一切ありません。
このことは国内外の動物行動学や獣医学の分野で周知されており、犬の知識をアップデートしている人たちの間ではすでに“常識”となりつつあります。
それでも、この古い考え方がいまだに広まっているのは残念なことです。
「犬がナメている?」と思える行動の裏にある本当の理由
犬との関係を「上下」で捉えてしまうと、日常の何気ない行動に「このコは私をバカにしてる?」「言うことを聞かないのは下に見ているからだ」と疑念を抱きやすくなります。
こうした思い込みが原因で、本来は別の理由でうまくいかない状況を「ナメられている」と誤解し、犬の行動を正しく理解できなくなることも。
その結果、犬に対して不必要な圧力をかけ、信頼関係を築くどころか関係を悪化させてしまう危険性すらあります。
飼い主さんからよく寄せられるのが「どう見てもナメているとしか思えない」という悩みです。
でも、その行動、本当に“反抗”なのでしょうか?
よくある原因には、次のようなものがあります。
- 指示のタイミングや言い方が犬にとってわかりにくい
- 飼い主が感情的になり、犬が混乱している
- 過去の経験から「こうすれば怒られる」と学び、回避行動をとっている
- 周囲の刺激に気を取られて集中できない
これらは上下関係ではなく、犬の学習や環境、感情の理解不足によるものです。

犬の行動には必ず理由があり、それを「支配」「反抗」と決めつけてしまうと、解決のヒントを見逃してしまいます。
上下関係論のルーツは“誤解されたオオカミ研究”
上下関係という概念は、かつてのオオカミ研究に由来します。
野生のオオカミは群れの中で序列を作り支配関係を築く――そんな考えから「犬も同じはず」という理論が生まれました。
しかしその後の研究で、オオカミの群れは基本的に家族単位で成り立ち、協力関係が中心であることがわかりました。
この誤った理解を基にした「支配理論(ドミナンス理論)」は、現在では動物行動学の分野で否定されています。
さらに近年の研究では、犬と人の関係は上下関係ではなく、親子や愛着関係に近いことが明らかになっています。
犬は飼い主とアイコンタクトをとったり、一緒に過ごすことでオキシトシン(幸せホルモン)を分泌し、信頼を深めているのです。

「上下関係がない=しつけ不要」ではない
ここで誤解しないでほしいのは、「上下関係がない」からといって犬に何も教えなくていいわけではないということ。
むしろ、人がガイド役となり、犬にわかりやすく暮らしのルールを伝えることが重要です。
犬は日常生活を通じて「していいこと・してはいけないこと」を少しずつ学んでいきます。
飼い主はそのナビゲーターとして犬を導き、安心できる存在でいることが求められます。
それは命令や力で抑えつける上下関係ではなく、信頼と安心をベースにした関係なのです。

「上下関係」を疑うことが犬との関係改善の第一歩
犬との関係を“上下”で測る必要はありません。
そのレッテルを貼ることで、犬の本当の気持ちや行動の理由を見逃してしまうこともあります。
しつけやトレーニングの理論は時代とともに進化しています。
「昔はこうだった」ではなく、最新の知識と犬たちの行動科学に基づいた方法を選ぶことが、信頼関係を築く第一歩です。
「上下関係」という言葉を耳にしたら、一度立ち止まって考えてみましょう。
その視点が、あなたと犬との暮らしをもっとあたたかく、心地よいものに変えてくれるはずです。

原案・監修:いぬのまどぐち/ドッグトレーナー・片寄智慧
編集・校正:いぬのまどぐち/今村奈緒菜

